経営理念とイノベーション

あこがれを信じ求める力が企業を動かす 著者  佐々木 圭吾
「経営理念が希薄になったとき、企業組織の命運も尽きる京セラ相談役伊藤謙介

       「敗軍の将、兵を語る」日経ビジネス誌の名物コーナーに
目の前の業積達成のために本来の企業のミッション、理念が形骸化し、不祥事を起こしてしまう、さらに事実を隠蔽してしまうというような事例は枚挙に遑がない。
「貧すれば鈍する」ということわざもあるけれども、経営が苦しくなって経営理念が忘れ去られるということよりは、企業の急成長の最中にこそ経営理念が希薄化し、企業の屋台骨を揺るがすことが多いようである。
すなわち、「経営理念が希薄になったとき、企業組織の命運も尽きる」のであり、その逆ではない。
伊藤相談役の言葉は真理だとおもわれる。著者 佐々木 圭吾

京セラの例を中心に経営理念のもつ企業にとっての意義や働きを探ってみたい。
今日、京セラが理念をペースとする経営をおこなう、日本を代表する企業であることに異論を挟む人はいないのであろう。
京セラは昭和34年に現名誉会長の稲盛和夫氏を中心とする八名で創業された。
当時既に先行する競合企業はいくつもあり、大手は博士号を取得した研究者を何人も抱えており、資金的にも人材的にも全くの競争劣位の状況から京セラはスタートした。
「頼れるものはなけなしの技術と、信じあえる仲間だけ」だったのである。
しかし今日、連結での売上高が一兆円を超える巨人企業に成長できたのは、経営者の志や理念の差ではないかと伊藤氏はかたる。
稲盛氏を中心に硝子メーカーからスピンアウトしたことにある。工場は間借りの木造で、鉛筆一本買うのにさえ苦労する状態であつたが、八名のメンバーは、同士としての団結、不退転の決意で働いた。そうした努力の結果、京セラの経営は少しずつ軌道にのりだした。稲盛和夫氏が経営理念を策定するのは、創業して三年後に起こった新たに採用した若手従業員との団体交渉がきっかけであった労働条件の改善を訴える若手従業員に対し稲盛和夫氏は企業の理想像を言葉に代えて経営理念として明示した。

それが「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」という経営理念である。

ここでのキーワードは、「物心両面の幸福」、とくに心の面での幸福であろう。
稲盛和夫氏は心の充足では人間として正しいことを貫くこと、人類に普遍的な価値観で物事をこなすことにあるとする。即ち、人間は性善であるけれども脆弱である。
こうした人間が人間として正しいことを貫いていく経営そうした人間と人間のきずなを根幹に添える「心をペースに経営する」という京セラの基本方針が生み出される。
こういった経営理念のもと、「全員参加の経営、ガラス張りの経営、原理原則を大切にする経営など」の全て一貫した体系となつている点で同社の優れたところである。

① 「フィロソフィー」 人間として正義を貫いていく→ 「心の充足をペースに経営」
② 「京セラ会計学」 マネジメント・システムとしての→ 「管理会計」
③ 「アメーバ経営」 理念を実現するための具体的な経営手法としての→
「全員参加、ガラス張り、原理原則を大切にする経営」

経営理念を軸とする企業のあり方に関し、他の企業の経営理念と比較して、京セラの優れた点は数多い。一つは、経営理念のもとに経営シスチムや管理会計方式など、すべて、一貫した体系となっている点である。

しかし、多くの企業で経営理念をに基づくマネジメント・システムは構築されていない。理念は策定したけれども、それに基づく活動が限定的で、理念と日常業務の評価制度がまったく切り離されては理念に基づく経営しているとは言い難い。

著者佐々木 圭吾の本書のテーマは、経営理念の機能と構造の論理的な解明にある。
すなわち、経営理念が希薄になったとき、企業組織の命運も尽きるという言葉の持つロジックを説明することである。
経営理念の重要性は多くの企業人に認識されている事実であり、いわば常識である。
しかしそれでも、多くの企業で理念は策定したけれども、それに基づく活動が限定的で形骸化していたり、理念と日常業務が全く切り離されていたりする。
こうした問題に関して、経営理念が本当に必要なものか、経営理念がなぜ必要なのか意味がわからない、といつた疑問をしばしば耳にする。すなわち、理念を主軸とする経営が形骸化する理由の一つは経営理念が健全な経営や企業の成長に及ぼす影響のメカニズムが不明確なことであると考えられる。
だとすれば、筆者に課せられるべきテーマは、何故 経営理念が希薄になったとき、企業組織の命運も尽きるのかそのロジックをできるだけ簡易に説明したいのである。

企業は社会的な理想を追いかける存在であると同時に利益を生み出し経済的に自立する事業体であるから後者の経済的自立を維持することに東奔西走しているしかし、経営者や組織のリーダーは経営理念の推進と社会的正義やあこがれの実現を中心的に訴えていくべきである。財務的成果を上げようとする現場の論理は商品や金融のマーケットのあとおしもあり、極めて盤石なものである。しかし倫理や正義の理想を求める論理は全社のパワーのまえでは極めて脆弱である。経営者やリーダーがその橋頭堡になってやっとバランスが取れるぐらいである。したがって経営者や組織のリーダーは本気で 経営理念の創造と浸透に努めなければならない。

著者 佐々木 圭吾のテーマ
「経営理念がイノベーションを促進し、イノベーションが理念を創造する。」
「いかにして感動、挑戦、対話、文化そして価値を生み出したか。」

金子会計事務所
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