大震災とTKC会計人の役割(TKC中部会春期フォーラムから)

< 大震災とTKC会計人の役割(TKC中部会春期フォーラムから)>

大武 健一郎TKC全国会会長の講演要旨より

  (一)東日本全体を復旧・復興でなく列島改造のような再生を
(二)風評被害と電力不足で日本の戦略は狂ってしまった。
(三)グローバル時代にそぐわない日本の社会保険制度
(四)震災前の国家観や人生設計を見直さなければならない

  (五)税理士法第一条には戦争体験者の魂がこめられている!

平成10年1月元自民党税調会長された山中貞則先生の言葉、大武会長が当時、山中貞則先生に税理士法改正をやりたいと、お話しすると山中貞則先生は、「大武君、それだけはやめとけ。税理士の世界は敵と味方にわかれていて、政治的にもややこしいから、そんなものに首を突っ込んだら大変だぞ。 俺の一生のうち、唯一禍根を残したのは昭和55年の税理士法改正だけだ。 金をもらったと新聞に書かれたし、小渕恵三さんは被告にもなった。 それでもやるというなら、飯塚 毅という人がいるから、その人の話をよく聞いておけ」と。更に、こうも言われました。
「君は戦後生まれだから解からんだろうけど、おれも飯塚も生き残ったんだ。焦土と化した日本を、これからどうやって再建させるか、それをするのが生き残った者の使命じゃないか。そこで俺たちは一致したんだ。税理士法第一条というのは、そんな戦争で生き残った者の魂が込められた条文なんだぞ。」

実は、国税庁次長として昭和55年改正を担った福田幸弘さんの盟友が飯塚全国会初代会長で、やはりどちらも似た経歴をお持ちです。まさに福田さんは海軍で敗戦を迎え、海軍史の研究に関しては大変有名な人でした。その当時、福田さんと飯塚初代会長が東京四谷の小さな店で、話をされているところに、ご一緒させてもらったことがありました。そこで税理士の使命条項の意味がなんであるかも聞きました。それが後の自分自身の税理士法改正(平成13年)の原点にもなっています。

税理士法第一条(税理士の使命)

 「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」
そもそも申告納税させることが、税理士の役割(税理士責務 昭和26年)でしたから上記のような「使命」条項ではありませんでした。帳簿を書く能力、税法を理解して税金の申告をするという役割のために、日本の税理士制度が誕生したわけです。
しかし、将来を見据えた福田さんたちが戦争の生き残りとして、日本経済を強くするためには税理士が片腕となって、まさにビジネスドクターとして、中小企業を支えていかない限り、これからの日本の再生はない。まさにそういう思いを共有されていたのだと思います。
ですから飯塚初代会長はTKCを創設し、改竄不可能な会計ソフトを世に送り出していかれたわけです。その方向へ突きすすんだのは、正しい帳簿に基づき経営しない限り、中小企業の成長も日本の国家の発展もないと考えたからでしょう。だからこそ、月次決算月次巡回監査、そして書面添付をしっかり実施することを飯塚初代会長は、TKC会員に強く求めつづけてこられたのだとおもいます。そういう帳簿をしっかりつけていく時代に入っているわけで、下記資料から税務当局・金融機関から信頼されるような書面添付申告・「中小企業の会計に関する指針」の適用に関するチェックリストの提供が推進されております。

① TKCが用意する証明書
記帳適時性証明書→会社法432条 会計帳簿作成の適時性
電子申告に関する証明書

② 業務の委任に関する基本契約書
    <契約内容 関与先企業(甲)とTKC会計人(乙)との約定事項>
第1条 甲は、乙に対して甲の資産・負債に影響を及ぼすべき一切の取引を、完全網羅的に、真実を、適時に、かつ整然明瞭に記帳または記録して、これを提示しなければならない。
第2条 乙は、TKC会計人としての使命に鑑み、甲に対し原則として毎月1回以上の巡回監査を実施し、全力をあげて、法の許す限りの節税と甲の経営の発展のため正しい会計処理の指導及び経営助言を行わなければならない。
第3条 甲の第1条違反の責任事項
第4条 乙の第2条違反の責任事項

③ 甲の乙に対する完全性宣言書

 (六)いまこそクライアント(関与先企業)の為に立ち上がろう

これからの日本は、本当に大きな価値観の転換が迫られています。間違いなく長寿化、グローバル化に伴う世界の波が、次から次へと日本を襲ってきます。そして、残念ながら日本という国のなかで、未曾有の天災が生じてしまった。こういう状況のなかでは、企業経営のきびしさはCEO(最高経営責任者)の決断に賭けることになりますが、CEOはそれぞれの技術や販売力に長けていても、世の中で何が起きていて、それが経営にどういう影響をあたえるのか、それをしっかり見据えることのできるCFO(最高財務責任者)となるアドバイザーが絶対に必要です。
国が中小企業を助けるのでなく、税理士の力量でそれぞれの企業が成長することこそ、これからの日本の進む道です。ましてや一人ひとりの人生設計は、自分で作る時代に入ります。「ゆりかごから墓場まで」という社会福祉政策を国がとれるはずがありません。だから税理士が少しでも、いい企業、強い企業を支えることによって、日本を発展させるしかないわけです。
現在、金融機関と提携したTKC経営改善計画支援プロジェクトが全国規模で展開されています。全国会としてその強力に応じたのは、TKC 会員が金融機関から信頼されるプロのビジネスドクターであるということを広く認めてもらうためです。2011・4・4 に公表された金融庁の監督指針(中小企業者等に対する金融の円滑化をはかるための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針)にも、金融機関がコンサルティング機能を発揮する際に、税理士等の専門家との連携が示されています。まさに税理士の力量が試されているわけです。医者は患者を元気にして笑顔で病院から送り出すことに喜びがある。それがお葬式になってしまうようでは、せっかく医者になった甲斐がありません。
この大変辛い時期、これまでの価値観を見直していかなければいけない時代に、素晴らしい企業を一社でも多く育てることが大切です。税理士という仕事は、自分のためではない。クライアントのために自分はいる。そんな「自利利他」の精神で生きてこそ、本当のビジネスドクターなのだとおもいます。そういう意味で税理士の仕事というのは、まさに信頼できるビジネスカルテを作って、CFOの役割でCEOの良きアドバイザーになるということです。
そしてこの機会に、もう一度、税理士法を読み返して、クライアントのために今こそ立ち上がるんだということを心に刻んでほしいと思います。
これまでの「変化をチャンスにしよう」を今後は、「原点に戻って取り組もう」ということになるかもしれません。
まさに厳しい時代だからこそ、真のビジネスドクターが求められているのです。

2011・5・31 金子 重二調書

金子会計事務所
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